将棋局面|稲葉陽―大石直嗣2012年7月4日竜王戦決勝トーナメント|稲葉の鬼手でパニック
2012年7月4日 第25期竜王戦決勝トーナメント
稲葉陽六段 対 大石直嗣四段
4四の金が5三金とすりこんで7一玉と落ちた局面。
先手玉は詰めろで絶体絶命に見えたが・・・
▲6二金
稲葉の鬼手でパニック
▲6二金! 鬼手があった。同玉は4四角。
2図以下△同金▲5一飛△7二玉▲5五飛成と5五の金を取れて先手の詰めろがほどけた。
この一局はずっと大石ペースで勝ち将棋だった。大石さんは1図の△7一玉で勝ったと思ったろうが、「▲6二金でパニックになりました(笑)」(大石)
それでもまだ後手優勢だったようだが鬼手が精神を狂わせたようだ。このあと大石が勝ちを逃して稲葉の大逆転勝ち。
稲葉さんは将棋内容は負けていたが、精神力で勝負に勝った。
将棋局面|桐山清澄 vs 米長邦雄 1986-07-01 棋聖戦第2局|その1 桐山、タイトル戦で珍しい・・・
第48期棋聖戦五番勝負第2局
*「桐山清澄九段」vs「米長邦雄十段」
何気ない角換りの序盤、この当時はあまり見ない手が。
▲4五角
桐山、タイトル戦で珍しい筋違い角
▲4五角と打つ「筋違い角」は、その昔の▲升田△木村の名人戦で現れたが、この当時の公式戦ではあまり指す棋士がいないようであった。
筋違い角は序盤早々歩をパクっと得できるが、打った角の活用が難しい。そのためかプロだけでなくアマチュアにも人気がないようだ。
そんな下火の筋違い角をタイトルに挑戦する桐山先生が指したものだから驚いた。
以下△5二金▲3四角△3三銀▲5六角△5四歩と進行。△5二金から△5四歩が後手の有力な指し方。
つづきあり、その2で。
将棋局面|桐山清澄 vs 米長邦雄 1986-07-01 棋聖戦第2局|その2 桐山の個性がよくでた好局
第48期棋聖戦五番勝負第2局
*「桐山清澄九段」vs「米長邦雄十段」
その1の続き。
△7七歩の金取りに先手は対処しなければいけないが・・・。
▲8八金
桐山の個性がよくでた好局
△7七歩に同桂だと5七桂成、同金、7六歩がいやに映る。
とはいえ▲8八金はすごい辛抱。カベ金のうえ玉頭に歩が残る。すごい「利かされ」で嫌われる形である。しかしこうされると後手もすぐに攻める手はないようだ。
2図以下△4四歩▲3六角△5三金と進むが、そこで▲7四歩が好手(同飛は5四角、同金、6三銀)でうまく反撃し、と金を作って先手優勢となった。
筋違い角をうまく活用して先手桐山勝ち。
桐山先生は好形からきれいに攻めるという将棋ではなかった。見慣れない形に組み、どこかぎこちない印象の棋風であった。桐山将棋はよく「いぶし銀」といわれた。
本局は序盤の筋違い角やこの金寄りなど、桐山先生の個性がよくでた好局だった。本局の勝利で棋聖位をたぐり寄せた。
将棋局面| 斎藤慎太郎―千田翔太2015年6月26日竜王戦決勝トーナメント|斎藤慎、勝ちを決めた受けの名手
2015年6月26日 第28期竜王戦決勝トーナメント
斎藤慎太郎六段 対 千田翔太五段
角換り腰掛銀の終盤戦。
後手玉の詰めろをなんとかしなければならない。
△5五角
斎藤慎、勝ちを決めた受けの名手
△5五角と桂馬の背後に打ったのが気づかない受け。桂馬が動くと3三に利くという見えない手だった。
これは詰めろを受けただけでなく「4四の桂馬を取りますよ」という手で、これで先手まいっている。勝ちを決めた受けの名手、名角だった。
2図以下▲4八飛とまわったが△9九桂成▲同玉△8七歩▲4二銀・・・以下形を作って先手投了、後手斎藤勝ちとなった。
将棋局面|深浦康市 vs 羽生善治 2011-06-11 棋聖戦第1局|羽生の勝利をもたらした一手
2011-06-11第82期棋聖戦五番勝負第1局
* 「深浦康市九段 」vs「羽生善治棋聖 」
後手の次の一手が勝利をもたらした。
△5七歩
羽生の勝利をもたらした一手
△5七歩のタラシが手筋の好手。同金ならそこで5九飛がきつい。よく見ると先手に5九歩と打つ歩が無い。6八銀打ちなら4九飛だろう。
実戦は2図以下▲6八金打△5九飛▲7八玉△5八歩成でと金ができた。このあと後手羽生さんが勝ち。
ところが△5七歩で先手がしびれているのかと思ったらそうではなかった。5五馬、5八歩成、7八玉なら難解だったという。
△5七歩は先手深浦さんを悩ませたようで▲6八金打ちの敗着を導いた。結果的に勝利をもたらした勝着となった。
将棋局面|桐山清澄 vs 中原誠 1981-05-19 名人戦第4局|桐山の鬼手
1981/05/19第39期名人戦七番勝負第4局
*「桐山清澄八段」vs「中原 誠名人」
先手は7一に竜がいるが桂損で攻めが細いように見えた。
どう攻め続けるのかと思ったが・・・。
▲4四角
桐山の鬼手 名人戦初勝利
▲4四角! ええっ?何かの間違い?と目を疑った。
2図以下、同玉、8二竜、同銀、4五飛、5四王、4一飛成と進んで納得。8二に飛車の質駒があった。そのあと小駒でうまく寄せて先手勝ちとなった。▲4四角は攻めをつなぐ起死回生の鬼手だった。
桐山八段は名人戦初勝利。しかし次局で敗れ1-4で名人挑戦は終わった。桐山八段はひねり飛車一局のほかは全て振飛車だったが、内容は完敗のシリーズだった。
桐山清澄九段はこの当時は振飛車党だった。しかしその後A級に在籍しながら居飛車党に転向する。昨今の広瀬八段なども同様の例だが、この当時でもチョー大胆なことだった。今以上に居飛車党、振飛車党の区別ははっきりしていたように思うし・・・。
桐山先生の居飛車党転向は功を奏して、のちに棋聖、棋王のタイトルを獲得することになる。「いぶし銀」と言われ地味な存在の桐山先生だがそうしたドラマがあった。
将棋局面|中原誠ー桐山清澄1981/05/06名人戦第3局|中原名人の柔らかい受け
1981/05/06第39期名人戦第3局
先手:中原 誠名人 後手:桐山清澄八段
△9五歩と厳しい手がやってきた局面。
先手中原名人の受けが見もの。
▲7九金△9六歩▲9八歩△2九飛成▲4三角△2八竜▲6八金打
中原名人の柔らかい受け
9五歩に同歩だと9八歩、同香、9九角、9七玉、8九飛成でたちまち寄りだ。先手金得だが油断ならない。
▲7九金と引いたのが柔らかい受けの好手だった。これで7八に玉の退路ができて、後手の攻めは頓挫してしまった。
▲6八金打と得した金をがっちり打つ。7八でなく6八が玉の広さを保つ好手。うまい受けで先手優勢。このあと先手中原名人快勝となった。
将棋局面|升田幸三vs大山康晴1966/04/21名人戦第2局|升田の名手 有名な局面
1966(昭和41年)/04/21第25期名人戦七番勝負第2局
*「升田幸三九段」vs「大山康晴名人」
角換りで後手右玉の将棋。
先手升田、一時間ほどの長考の末に指したという。
▲1八角
升田の名手”遠見の角” 有名な局面
▲1八角と打つ天野宗歩ばりの「遠見の角」が指された。名人戦という大舞台であり、2図は升田の遠見の角で知られる有名な局面である。
以下△6一玉 ▲3八飛 △5二玉 ▲5六歩 △同 歩 ▲同 銀△3四歩 ▲3七桂で3図。
△6一玉の引っ越しは7五歩、同歩、7四歩があるためやむを得ない。それがなくとも後手は角の直射がなんとも嫌味である。
3図▲3七桂となり先手は桂馬が活用できた。▲1八角の効果で2七角や2九角を防いでいるのがわかる。
遠見の角を打ってすぐ先手優勢というわけではないが、攻撃態勢を築くことができた。2図の遠見の角は局面を有利に進める名手であった。
結果は先手升田勝ち。
将棋局面|山崎隆之vs PONANZA2016/04/09電王戦第1局| コンピュータの素晴らしい妙手順
2016/04/09第1期電王戦 二番勝負 第1局
山崎隆之叡王 vs PONANZA
先手の次の手は必然と思ったら、とんでもない3手ひと組の妙手順があった。
▲8二歩成△同銀▲6五桂
コンピュータの3手ひと組の素晴らしい妙手順
先手はとりあえず2八歩が必然手と思っていた。あやまっておいて8二銀と打っていけばいいではないかと。
ところがポナンザが▲8二歩成と大事そうな拠点の歩を成り捨てたので驚いた。「ひえっ???一体何すんの???」と。
△同銀に▲6五桂!が妙手順だった。飛車の利きで同飛と取れてしまうではないか。だがそれには2二歩で後手が思わしくない。後手は5三桂の傷があるのが痛い。
2図で5二歩なら8五飛、8四歩、5三桂不成。この変化が絶品だった。桂馬を跳ねられた2図は山崎八段にはさぞかし寒い寒い時間だっただろう。
実戦は△3 一角と頑張ったが▲5 四銀△2 九飛成▲5 三桂不成△同 角▲同銀成で先手優勢。結果は先手ポナンザの快勝となった。
今までコンピュータには驚かされる手順をしばしば見せてもらったが、またまた見せてもらった。素晴らしい妙手順だった。